FRBの積極的な金融引き締めに加え、世界経済の減速懸念のなかで安全資産と認識されているドルが、過去最高値を更新したことは当然の流れといえるでしょう。ドルはプラザ合意後の高値を更新し、DXY指数(米ドル指数)は110を超え、2002年6月以来の高水準となりました。しかし、先週末、世界の主要中央銀行が利上げに踏み切ったためか、流れが変わりました。欧州中央銀行(ECB)は景気後退のリスクが明らかであるにも関わらず75bpの利上げを実施し、ECBが年末までに量的引き締めを検討する可能性も指摘されました。一方、日本の金融当局は円安への懸念を強め、円高をけん制する強い口調での発言を行いました。地政学的な面でも、ウクライナがロシアから北東部の重要都市を奪還し、南部でも前進しているとの報道があり、選挙区の潮目が変わった可能性もあるとの説も出てきました。そのため、安全資産であるドルへのフローが減少し、ユーロや英ポンドが上昇する可能性があります。
一方、今週は米国とFRBに焦点が戻ってきます。火曜日(9月13日)の米消費者物価指数(CPI)は、来週開催されるFOMC前の最後の注目データとなります。9月22日に予定されているFRBの決定では75bpの利上げが織り込まれています。米国CPIがポジティブサプライズとなれば、FRBの予想がさらに上方修正され、ターミナルレートが来年には4%を超え、緩和期待が来年後半または2024年に先送りされるかもしれません。その結果、米国債利回りが上昇するなか、ドルのさらなる上昇がサポートされることになります。
しかし、ドル高が常に好ましいとは限りません。多くの米国企業は収益のかなりの部分を米国外で得ているため、米国企業の収益はドル高から直接的な打撃を受けます。ほとんどの企業は何らかの為替ヘッジ戦略をとっていますが、歴史的にみて、米ドルの大幅な上昇に9-12か月遅れで業績が下方修正されてきました。米国は製造業の復活という大局的な戦略目標をもっていますが、ドル高が製造業の競争力を削ぐ可能性もあります。しかし、今のところ、ドル高に歯止めがかかったり、反転に向かったりする十分な理由は見当たりません。FRBが、米国の需要を減速させ、インフレ圧力を鎮圧するためにさらなる行動を起こすことを自覚し、その用意があるというマクロ環境下では、少なくとも2022年末から2023年初頭まで、ドルのさらなる上昇が続くことが示唆されます。
米ドルが天井をつけたと判断される前に幾つかの状況に変化がみられる必要があります。
1. 景気後退および株価暴落の可能性を考慮し、FRBが利上げのペースを落とす必要があります。米国の経済指標は堅調に推移しており、先週のように市場のセンチメントが過度に弱気に転じても株価が暴落する兆しはまだ見られません。相対的に見ると、市場はECBとイングランド銀行の引き締めサイクルを過大に織り込んでおり、FRBの引き締めサイクルはまだ十分に織り込んでいない可能性があります。
2. 欧州と英国のスタグフレーションのリスクが低減する必要があります。EU緊急首脳会議では、エネルギー供給の確保についてコンセンサスが得られず、厳しい冬となりそうです。軍事面では若干のリスク低下がみられるとはいえ依然として不安定であり、欧州のガス供給に対するロシアからの圧力がさらに高まる可能性もあります。
3. 一方、中国はゼロコロナ政策を転換する必要がありますが、少なくとも来年までには実現しそうにありません。新型コロナウイルスに加え、中国の不動産セクターの問題の拡大とその結果としての信用不安は、人民元へのさらなる圧力となり、米ドルの強気トレンドを長引かせる可能性があります。中国人民銀行は、人民元の管理範囲内での下落を許容しているようにみられます。
4. 米国以外の金融当局も、自国通貨安に対する措置を検討する必要があります 。今年、G10ボードで最も大きく下落したのは日本円でした。日本の当局者は円安に対する懸念を表明しましたが、日本円の回復は緩やかなものにとどまりました。日米の利回り格差から、今後も対円でのドルの上昇が支えられるでしょう。仮に日本の当局が直接介入したとしても、ボラティリティが高まるだけでしょう。円安を反転させる唯一のきっかけとなるのは、米国の利回り低下か、日銀のイールドカーブコントロール政策の調整です。
5. FRBがインフレ目標を中期的に2-3%に変更すること。米ドルを適当な水準で安定させるために、FRBは量的緩和を開始する必要があるかもしれません。
米ドルへのエクスポージャーを確保する方法
米ドルへのエクスポージャーを得る方法としては、次の金融商品があります。
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先物(DXU2)またはCFD(USDINDEXSEP22)を通じたドル指数への直接のエクスポージャ
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WisdomTree Bloomberg U.S. Dollar Bullish Fund (USDU:arcx) 、 Invesco DB USD Index Bullish Fund (UUP:arcx) 、または BetaShares US Dollar (USD:xasx) などの ETF