商品:困難で大きな変動が予想される第4四半期

商品:困難で大きな変動が予想される第4四半期

オーレ・ハンセン

コモディティ戦略責任者(Saxo Group)

供給不足が成長懸念を相殺  

年末にかけては、多くのコモディティにとって複数の不確実要因による変化の大きい環境が続き、また不況の足音はますます大きくなると予想されますが、コモディティセクターは大きな下落に見舞われることはなく、2023年には再び勢いを取り戻すものと思われます。このように価格が安定し、さらに上昇する可能性があるのは、エネルギー、金属、農産物の3つのサブセクター全てにわたり、主要商品が強さを維持しているためです。ブルームバーグ商品指数は主要24商品のバスケットに連動しており、年内は10%以上の上昇を維持すると予想されます。  

本稿では、最終的に需給によって価格が決定される商品の動向に焦点を当てます。 成長と需要に対する懸念があるなか、一部の主要商品は需要と供給の双方で引き続き圧力にさらされています。第1四半期には、戦争、制裁、パンデミック後の、消費財とそれらの生産に使用されるエネルギーへの需要急増に牽引されて価格は急上昇しました。しかしその後、6月には米FRBがインフレの暴走に対抗するための利上げを加速させ、それに中国でのゼロコロナ政策と不動産部門の苦境が加わり、相場は急落しました。第3四半期には商品セクターは再び回復しましたが、需要の弱さがみられると同時に、供給サイドの課題も顕在化しています。2021年初頭にも述べましたが、そうした供給要因が、長期にわたる商品価格の上昇を支えるものと考えられます。  

複数の不確実要因としては、まず需要サイドが注目されます。米国連邦準備制度理事会(FRB)を筆頭に、世界中の中央銀行が景気を冷ますために積極的な利上げを実施し、暴走するインフレに対抗しようとする動きを強めてきたため、それが需要の低減につながることは明らかです。さらに、中国は厳格なゼロコロナ政策に1か月にわたって取り組み、今のところ成果を得られておらず、また不動産部門の危機も加わり、世界最大の原材料消費国である中国の景気減速に拍車がかかっています。しかし、中国の現在の低迷は一時的なものであり、国内のインフレ圧力が緩和されていることから、政府と中国人民銀行は、景気回復を支えるための取り組みを強化するものと思われます。 

農産物:世界の食糧需要は比較的一定しているため、供給サイドが引き続き価格全体の方向性を左右することになるでしょう。しかし、冬から来週にかけては、複数の課題によって価格が上昇することが予想されます。主な要因としては、ガス価格の高騰による肥料コスト、気候変動、2022-2023年の北半球の冬の「トリプルディップ」ラニーニャ現象が挙げられます。ラニーニャ現象は、世界中の気温変化の原因となり、過去2-3年間に複数の気候緊急事態を引き起こした気象現象です。さらに、プーチンのウクライナ戦争によって、世界市場への穀物や食用油の主要供給国からの輸出が激減しています。小麦、米、大豆、コーンなど主要な食料品目の世界的な在庫は、天候や輸出規制によって既に圧迫されており、さらなる高騰のリスクは、依然として明確かつ重大な危険性をはらんでいます。  

貴金属のトレーダーと投資家は、ドルと米国債利回りの方向性に引き続き注目しています。両者の強さが、金価格が年初来下落し、現在の300ドルの広いレンジの下限近くで取引されている主な要因となっています。しかし、数十年来のドル高と、過去最も急速に上昇している実質利回りを考慮すると、2022年のこれまでの金のパフォーマンスは許容範囲であり、ドルの上昇が止まれば、再び底力を発揮すると考えられます。しかし、数十年来のドル高と、過去最も急速に上昇している実質利回りを考慮すると、2022年のこれまでの金のパフォーマンスは許容範囲であり、ドルの上昇が止まれば、再び底力を発揮すると考えられます。  

は現在、1680ドルから2000ドルの広いレンジ内で取引されており、年末に向けての方向性は、ドルの行方と、FRBが米国経済を不況に追い込むことなくインフレを鎮静化出来るかどうかによって決まりそうです。後者は大きな課題であり、市場は、現在織り込んでいる1年先期待インフレ率3%以下を修正する必要に迫られる可能性があります。2023年に米国が景気後退に陥り、インフレ率がより長期にわたって高止まりするリスクがあることから、前述の通り、ドル相場がピークアウトの兆しを見せれば、このシナリオでは金が良好なパフォーマンスを示すであろうと当社は考えています。年末にかけて横ばいの推移が続いた後、2023年にはこうした展開が貴金属投資にとって追い風となり、それに伴い、前述のレンジの上限に向かって再び上昇すると予想されます。  

当社では、現在、投資家の動きが鈍く、工業用金属セクターの回復が支援要因となる銀が有力と考えています。工業用金属セクターでは、極めて高水準のガス・電力価格により、特にアルミニウムと亜鉛の減産を世界中で余儀なくされており、特に、長期にわたる干ばつにより精錬所が電力不足に見舞われている欧州と中国でそれが顕著となっています。  

工業用金属:世界の電化に向けた需要の高まりが予想されることから、工業用金属セクターに対する長期的にポジティブの見通しを維持します。「King of green metal(グリーンメタルの王)」と呼ばれる銅については、中南米やアフリカを中心とする世界の鉱山会社が、来年、一時的に生産能力を増強する見込みであることから、短期的には再び最高値を更新する見通しは低いと考えられます。  

世界各地で激しい天候不順が続き、またロシア産エネルギーへの依存度を引き下げガスから石炭・石油に転換する必要性に迫られていることから、銅を使用した電化は世界的に拡大していくでしょう。しかし、送配電網がベースロード(最低限必要な電力量)に対応できるようになるには、今後数年間、銅を大量に使用した新たな投資が必要となります。また、世界最大の銅供給国であるチリのように、鉱石の品質低下や水不足の中で生産目標の達成が困難となっている生産者が既に存在します。中国の景気減速は一時的なものとみられ、景気刺激策による景気浮揚はインフラと電化に集中すると考えられますが、これらはいずれも工業用金属を必要とする分野です。  

原油は、市場が景気減速による需要減少見通しを織り込み、ロシアによる侵攻前の水準に戻っています。その結果、スポット価格は下落し、フォワードカーブは在庫増加に相応しない程度までフラット化しました。マクロ経済の見通しにより、現在の需給状況から説明できない水準まで価格が下落したのではないかと推測されます。 

ここ数か月、特に夏のドライブシーズンの終わりと、移動と成長を阻んでいる中国での一時的なロックダウンが続いていることにより、需要が減少していることは間違いがありません。欧州では、ガスと電力の異常な価格高騰も燃料需要減少の要因となっていますが、欧州では依然としてロシアから日量約300万バレルを輸入しており、2022年12月5日までの輸入禁止措置の導入により市場全体の需給が悪化することになるでしょう。その一方で、ロシアは他の買い手を探すことになります。  

当社は、現在の原油のファンダメンタルズの弱さは一時的なものとみており、EIA(米国エネルギー情報局)、OPEC(石油輸出国機構)、IEA(国際エネルギー機関)の主要な原油予測機関が、現在の成長懸念にも関わらず2023年の需要増加予測を維持していることに同意しています。今四半期の原油価格は、ブレント原油が1バレル当たり85ドルから105ドルのレンジで推移する、ボックス圏相場が続くと予想しています。価格に影響を与える可能性のある主な展開としては以下が挙げられます。 

  • 中国のゼロコロナ政策継続と成長リスクを相殺する追加刺激策 
  • ガスからの燃料転換による留出油製品への需要引き上げ 
  • EUのロシア産原油の禁輸措置によりロシアでの生産量が減少する可能性 
  • 米国が1バレル80ドル以下の戦略的備蓄の補充を開始する計画 
  • 価格がさらに下落した場合にOPECが減産に踏み切る可能性 
  • 米国とインフレとドルの方向:いずれも全般的なリスク選好度を左右する重要な要因 
  • 米国の生産量増加:失速の兆しがありそれによって価格が下支えされている 

石油メジャーが資金繰りに行き詰まり、投資家も全般的に新鉱区への投資意欲を失っています。これが、今後数年間、エネルギーコストが上昇し続けると考える長期的な理由です。このような状況下で、喫緊の課題として注目されているグリーントランスフォーメーションが推進され、化石燃料に対する世界的な需要が減少し始めることになります。この転換のタイミングだからこそ、投資意欲が低く抑えられるのです。数か月で油井(油田において原油を採掘するために使う井戸)が利用可能になるフラッキング(水圧破砕法)といった新たな採掘方法とは異なり、従来の石油生産プロジェクトは、生産開始までに数年、数十億円の投資を必要とするものが多いのが現状です。そのため、新規生産への投資を検討している石油会社は、ブレント原油で95ドル、WTI原油でそれ以下のスポット価格ではなく、現在先物市場で取引されている5年後の受渡価格から30ドル以上低い価格に注目するのです。  

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