債券投資の好機

債券投資の好機

スティーン・ヤコブセン

最高投資責任者(CIO, Saxo Bank A/S)

サマリー:  実質金利が過度に高い水準にある中で、3つのシナリオが考えられるでしょう。それは、1)世界の政策金利がピークに達すること、2)政府の行き過ぎた介入、3)創造的破壊による経済リセットです。


私たちは、サイクルの頂点で固定金利を確保する40年ぶりの機会に立ち会っているか、あるいは、政府の行き過ぎを通じて経済政策のシュンペーター的な創造的破壊の瞬間へ完全なパラダイムシフトが起きる転換点に立っているかのどちらかです。

機会か破壊か?簡単な選択のように聞こえますが、問題は、この機会が国家介入主義に基づいて構築された機能不全な市場・経済モデルの関数であるのに対し、シュンペーターの創造的破壊は経済的・社会的進化の自然なプロセスであるということです。

明確に異なる3つのシナリオに確率を付けました。

  • 世界の政策金利がピークに達する(50%)
  • 政府の行き過ぎた介入 - 旧式のモデルの下で経済を維持するために増え続ける介入と規制(35%)
  • 創造的破壊による経済のリセット(15%) - 経済を市場に基づく配分へとリセットし、完全な景気循環サイクルを受け入れる

世界の政策金利がピークに達する(シナリオ予想)

あまりにも高い実質金利により、資金ニーズのあるセクターや消費者が影響を受けています。すでに、洋上風力発電事業者などのグリーン・トランスフォーメーション企業の間で、現在の金利水準の下ではプロジェクトの経済的価値が大幅な赤字に転落するといった影響が出始めています。

消費者は新型コロナ禍の貯金を使い果たした可能性があり、クレジットカード、住宅ローン、自動車(ローン)のコストが過去平均の2倍に上るため、消費を控えざるを得ません。

また、各国政府が猛烈なスピードで国債を発行し続けている結果、伝統的な債券の買い手が膨大な元本割れ債券を抱える状況となっているため、流動性イベントが生じるリスクがあります。

景気減速と流動性イベントは同程度に起きる可能性があると当社は見ています。

政府の行き過ぎた介入(シナリオ予想)

すでに起きている政府の行き過ぎを未来の出来事として書くのは皮肉に聞こえるかもしれません。新たな規制の多さで懸念されるのは、その意図ではなく、その実施、つまり無限に続く官僚的手続きです。

欧州は10月1日から炭素国境調整メカニズム(CBAM)を導入しますが、実際にはこれは保護主義的な税障壁を表す古くからある古典的な貿易用語に他なりません。グリーン規制やESG測定は、政治と中央銀行の象牙の塔の中で話題になっています。彼らは 「何かに取り組んでいる」 様子を見せたいと思っており、その過程で民間のソリューションや取り組みを歪めています。しかし、方向を変えるのに失敗しても、彼らは「問題は、規制や政府の政策に焦点を当てすぎていることではなく、むしろ当てなさすぎることだ!」と主張します。

おそらく、「経済学101」のような経済学の入門書が必要なのでしょう。生産的でないものは失敗します。ただし、政府がそれらを人工的に生かしている場合は別で、その可能性は非常に高いといえます。

民間の資本や取り組みを締め出すのは決して良い考えではありません。それは、財政赤字の増加、持続不可能な債務水準、資本から物価に至るすべてのものに最大限のコストを課す必要性につながります。政治家が中央集権的に経済を動かして、有権者を調整、「保護」しようとするときの物価、家賃、イールドカーブ・コントロールを考えてみてください。この場合、ターミナルレート(利上げの最終到達地点)はより高くなり、米10年物ベンチマーク国債の利回りはおそらく5.05.5%になるでしょう。

創造的破壊による経済リセット(シナリオ予想)

自由主義経済学者たちはシュンペーターの経済モデル理論に回帰し続けています。このモデルは、パラメーターをリセットする、繰り返し起きる森林火災を必要とし、イノベーションとより生産的な方法によって前進します。危機が、上昇するための新しい基盤を作り出します。

ここでのリスクは、おそらく、拡大し続ける不平等からこの新たな基盤が導き出される必要があるということです。若者と高齢者の間、中小企業と多国籍企業の間、持てる者と持たざる者の間での不平等です。私は、経済モデルがこのシナリオに移行するとは思えません。なぜなら、すべてを安定させ何としてでも不況を回避するという現在の信念に、あまりにも多くの政治資本が投入されているためです。

有権者がこれにもううんざりだという可能性はあります。今のところ、右派、特にヨーロッパの右派が、政府よりも個人という考えを打ち出し、世論調査で支持を得つつあります。 

私ような古い人間にとっては、現在の状況はアーサー・ラッファーのサプライサイド経済学が流行った1980年代や、クーがバランスシート不況の概念を導入した2008年の世界金融危機後によく似ているように思えます。現在に立ち戻って、経済的スポットライトを浴びているのは誰でしょうか。ラッファーとクーです!

1980
年代は、価格統制やエネルギー価格の高騰、ブレトンウッズ体制の崩壊、高賃金・高インフレ、通貨切り下げの時代だった1970年代の大きな政府へのアンチテーゼでした。

思い当たることがありませんか?

私たちにとっての課題は、今ある状況とは逆になる場合が往々にしてあるという原理に基づいて、次のサイクルが何であるかを解明することです。

おそらく正解は、今後
10年間に上述した3つのシナリオのすべてが起きるということでしょう。

それは、まず政策金利がピークに達するシナリオ、次に政府の行き過ぎ介入、そしてシュンペーターの創造的破壊への移行の順で起こると思われます。

これが私の予想です。世界はサイクルがもう一度回っているようにみせたいと思っていますし、おそらくそれは可能でしょう。しかし、現行の経済モデルをもう一度回すためには、今やすべての人、すべてのものを「保護」しなければなりません。これは、資本コストがもはや上昇できないことを意味します。上昇すれば、シュンペーター的シナリオに直接移行してしまうためです。

The King is dead. Long live the King.
(意訳:昔の伝統的な枠組みはすでになくなっているのです。しかし、新たな枠組みが生まれることでしょう)

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