ピーク金利や供給ひっ迫に支えられコモディティ・セクターは堅調

ピーク金利や供給ひっ迫に支えられコモディティ・セクターは堅調

オーレ・ハンセン

コモディティ戦略責任者(Saxo Group)

サマリー:  エネルギーのみならず、コモディティ・セクター全体において供給がひっ迫しているため、コモディティ価格の上昇の勢いは続き、中央銀行に実質金利の引き下げを迫る可能性があります。その場合、金、銀、そしてプラチナを含む貴金属セクターにとって好材料となるでしょう。


スタグフレーションが貴金属セクターを再上昇させる可能性

主要コモディティは第3四半期、当グループが予想したとおり堅調に推移しました。欧米や、欧米程ではないにせよ中国で経済見通しが悪化しているものの供給懸念が依然として勝っているため、この堅調さは第4四半期も続く模様です。特にエネルギー・セクターでは、OPECプラス産油国グループの積極的な供給管理が非常にうまく行われたため、原油や燃料ベース製品全体にわたって大幅な需給ひっ迫が生じ価格を下支えしました。

貴金属

貴金属の第3四半期のパフォーマンスは良好でした。ドル高や米国債利回りの大幅な上昇、さらにFOMCが政策金利をより高くより長く維持するとの見方が強まったにもかかわらず、金価格はほぼ横ばいで推移しました。しかし、大西洋の両側で経済がスタグフレーションに向かうリスクが高まっていることを踏まえると、金銀などの投資用貴金属は、金に対し足元で割安となっているプラチナを含め、堅調な第4四半期を迎える可能性があると当グループは見ています。

中央銀行は、最近のエネルギー・セクターの上昇によりさらに厳しくなったインフレとの戦いを続けており、貴金属相場を支えているピーク金利シナリオがいつ実現するかは依然として不透明です。もっとも、アルセラ・スピノッツィ氏が債券市場見通しの中で書いているように、インフレが粘着質であるからといってさらなる利上げが行われるとは限りません。利上げ幅はすでに縮小しており、いくつかの中央銀行は一部の会合で利上げを見送っています。これは、利上げサイクルが終わりに近づいているか、すでに利上げが終わっているかもしれないということを意味します。

インフレ率が中央銀行の目標を上回っているため、今後中央銀行は金融政策を微調整する段階に入り、タカ派的バイアスを維持しようとすると考えられます。しかし、今後を予想するに、経済活動の減速と地政学的リスクが先行きに暗い影を落とす可能性があると思われ、これらが債券だけでなく貴金属でも強気相場の機運を高めると予想されます。利回りが安定し、投資家は実質利回りの低下の必要性(米国の実質利回りは足元の見通しを考えると持続不可能な高水準です)に次第に焦点を当てるようになるでしょう。


私たちは金、銀、プラチナについて強気の見方を辛抱強く維持しており、金は今後数か月で最終的に過去最高値に到達すると見ています。FOMCが利上げから利下げに舵を切るのが待たれる中、上値を切り上げるタイミングは依然として米国の経済指標に大きく左右され、第4四半期も前四半期と同様、荒れた相場展開が予想されると考えています。

工業用金属

工業用金属に関しては、中国政府による経済や不動産セクター、通貨の安定化に向けた取り組みが引き続き注目されます。一方、グリーン・メタルと呼ばれる金属への需要は、世界の電化が一段と進むにつれて増え続けており、価格を引き続き一定程度下支えしています。

また、将来の安定供給を保証する大規模な鉱山プロジェクトの欠如は長期投資家の関心を引き続き集めており、この点は当グループの構造的な強気見通しを支える要因の一つとなっています。当グループの強気見通しを支えている他の要因としては、銅などのグリーン・トランスフォーメーション関連金属に対する需要が増大していることや、ディーゼル価格や労働コストの上昇、鉱石のグレードの低下、規制コストの上昇や政府の介入、そして重要な点として洪水から干ばつまで混乱を引き起こす気候変動によってインプット価格が上昇し、鉱山会社がキャッシュコストの上昇に直面していることが挙げられます。この大規模な鉱山プロジェクトの欠如は、取引所がモニタリングしている主要鉱物の在庫水準が数年ぶりの低水準に近づいていることにすでに現れています。

銅は現在3.25~4.25ドルの広いレンジの中で推移していますが、当グループは長期的に強気な見通しを維持しています。短期的には人民元の動向がほぼ価格の方向性を決定しますが、その後は供給ひっ迫見通しと堅調な電化需要に焦点が移り、最終的に価格は上昇し来年のどこかで過去最高値に向かうとみられます。

原油および燃料製品

エネルギー価格を大幅に上昇させようとする、OPECプラス産油国グループの試みが成功を収めていることで、投資用金属にとって支援材料となるスタグフレーション・リスクが高まっています。安すぎる価格に直面したサウジアラビアを中心とする主要産油国は、4月以降、減産を通じてエネルギー市場を引き締めています。当初は、安定的でバランスのとれた市場の必要性が減産の理由とされていましたが、収益を最適化するための価格上昇が主な目的であることを市場は次第に分かってきました。

ロシアとサウジアラビアが自主的な減産を年末まで延長すると発表したことや、OPECが月次報告書で第4四半期に世界の石油市場は日量330万バレル不足する可能性があると指摘したことが引き金となって、ブレント価格はつい最近100ドルに向けて急騰しました。IEA(国際エネルギー機関)がより緩やかな、しかし懸念される供給不足を予想する一方で、原油価格の見通しは明らかに好転しました。軽油を多く抽出できる原油の供給をロシアと中東の生産国が削減したために軽油の在庫が非常にひっ迫していることが現在の需給ひっ迫の大きな要因になりつつあります。第4四半期に価格が上昇するリスクは排除できません。OPECプラスが価格の安定よりも価格の最適化に重点を置いており、短期的にブレントが100ドルに向かい、一時的に100ドルを超えるリスクを排除できないという事実を当グループの価格見通しは織り込む必要があります。

しかし、OPECは供給をコントロールすることができ、生産余力を意図せずに高めますが(これは価格の上昇とめったに連動しません)、他方、OPECが需要に与える影響は限られています。エネルギー価格上昇によるインフレ圧力が再び高まり、経済見通しが悪化するにつれて、最終的に需要を巡る懸念に再び焦点が当たると当グループはみています。その時になって初めて、自己主張を強めるOPECが守ろうとしている下限(おそらく80ドル台半ば)を市場は探り始めるでしょう。

農業

世界の食料価格は、国連FAO(食糧農業機関)の世界食料価格指数によると前年同期比12%下落しましたが、農業セクター内のパフォーマンスの違いが第3四半期に明確に現れ、穀物・大豆セクターが下落した一方で、ソフト・セクターの上昇率はエネルギー・セクターに次いで2番目となりました。トウモロコシと小麦のシカゴ先物は値下がりしました。これは、生育期に当初危惧されていたよりも収穫が多かったことが、ウクライナの小麦供給を巡る懸念の軽減に寄与したためです。今後数か月は南半球の気象動向に注目が集まるでしょう。特に、ラニーニャ現象による暑さへの懸念がすでに高まっているオーストラリアや、トウモロコシと大豆の世界最大の輸入国である中国への主要供給国の座を米国に取って代わりつつある南米の気象が注目されます。一方、ソフト・セクターはアジア全域での暑さへの懸念によって支えられており、今後も支えられる可能性が高く、すでに砂糖と米の輸出は制限されています。また、フロリダ州のオレンジジュースの生産は激減しています。

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