中国の見通し:報復かエスカレーション回避か

中国の見通し:報復かエスカレーション回避か

四半期見通し 4 minutes to read
チャル・チャナナ

チーフ・インベストメント・ストラテジスト

重要なポイント:

  • 中国は海外の関税と国内の景気減速という二重の圧力に直面:トランプ政権下で米国が新たに関税を課した場合、中国ではGDP12%低下する可能性があり、不動産セクターの不振や消費者需要の低迷、地方政府の債務懸念といった既にある困難が更に悪化することが見込まれます。
  • 報復とエスカレーション回避のいずれの路線にもリスク:積極的な報復措置(関税や輸出規制など)は中国のハイテク部門にとって打撃となる上、世界的な貿易摩擦を悪化させる可能性もあります。人民元の切り下げでさえ、資本流出や投資家からの信頼低下というリスクが伴います。エスカレーション回避を図れば市場は安定するかもしれませんが、貿易や通貨の面で譲歩する必要があります。どの程度まで譲歩するかによって、中国の景気回復にかかる時間が決まることになるでしょう。
  • 政策対応でマーケットの結果が決まる:中国は内需を支えるため、的を絞った財政刺激策と構造改革を実施すると思われますが、人民元には依然として下落のリスクがあります。他方で、中国株には銘柄次第でチャンスもあるでしょう。
 
 

2025年が幕を開けたところで、中国は2つの難問に直面しています。第一に、トランプ政権の再来により、米国の大幅な関税引き上げという脅威が迫っています。中国からの輸入品に対して60%の関税を課す案が示されていますが、この場合、貿易戦争が再燃しかねません。第二に、外圧を除外しても、中国は国内経済の減速に苦しんでおり、消費者マインドの低迷や不動産セクターの不振、債務問題への不安にそれが表れています。問題は、中国政府がどう対応するかです。

中国には大きく2つの選択肢があります。報復するか、あるいは緊張のエスカレーション回避を図るかです。いずれの路線にしても、株式、人民元、さらには米ドルにさえ、明確に異なる影響があります。強硬路線には短期的な鎮痛効果があるとしても、経済的な苦痛は悪化するでしょう。それに対して協力的なアプローチは市場を安定させ、長期的な成長見通しを引き上げる可能性があります。

関税:反撃するか、休戦を求めるか

トランプ氏の選挙公約には、中国からの輸入品に対する関税を最大で60%まで引き上げることが含まれていました。トランプ政権がこの関税を直ちに実施するのか、あるいは交渉の切り札として使うのかは、まだ不透明です。歴史的に見れば、関税が引き上げられた場合、中国の輸出、ひいてはGDPは打撃を受けることになります。この規模の関税が新たに課された場合、中国の年間GDP12%縮小しかねないという予測もあります。関税が段階的に課された場合、あるいはこれより低い水準に押さえられた場合であれば、損害は対応可能なものになるかもしれません。しかし、全面的な貿易戦争になれば、既に脆弱となっている経済に対してより強い圧力が加えられることになるでしょう。

中国が自国の関税で報復しようとしても、その能力は米国との貿易不均衡により制約を受けることになります。米国はGDPに占める対中国輸出の割合が小さいのに対して、中国は対米輸出が経済の中で大きな割合を占めています。あからさまな報復関税は中国の新興産業、特に引き続き戦略的な優先課題となっているハイテク製造業や高級品の製造業に、打撃を与えるリスクがあります。中国資産にとっては、報復シナリオの中にいかなる救いのしるしがあるとしても、貿易摩擦が長引けば経済成長に大きな重しとなることから、それは短命に終わることになるでしょう。

しかし、中国としては非関税戦略に注力することもできるでしょう。例えば、レアアース(REEs)などの重要鉱物に対する輸出規制を継続することなどです。ただし、こうした措置についても、レアアースでは代替的な供給源が世界各地に出てきているなど、その効果は今までのところ限定的です。

その他に中国がほのめかしていた措置として、来年は人民元の下落を容認するという計画があります。通貨に対する統制が計画的に緩和されてきたことから、こうした措置はあり得ると思われますが、まだ明確なシグナルは現れていません。当然ながら、これは容易な選択ではありません。こうした措置は投資家の信頼を損ない、資本流出につながり、輸入コストの上昇により企業に困難な状況を引き起こしかねないからです。むしろ中国政府としては、人民元の安定化に注力して金融の安定を図るとともに、全面的な通貨戦争を回避することが、現状の経済的苦境からの回復に向けた最善の策と言えるかもしれません。それゆえ、人民元の先行きとしてより考えられる可能性は、急落ではなく緩やかな元安でしょう。

逆に、中国がエスカレーション回避を追求し、協定交渉を行った場合、人民元高に作用し、行き過ぎた米ドル高を是正できる可能性があるでしょう。ドル安の動きに加え、貿易の不透明性が低下すれば、中国資産に対する心理的改善が見込めます。しかし、エスカレーション回避のためには、中国側が貿易や通貨で譲歩する必要があります。例えば、中国が輸入について改めて確約することや、人民元の切り上げ、あるいはウクライナなど地政学的課題の解決における中国の協力などです。どの程度まで譲歩するかによって、中国の景気回復までの時間が決まることになるでしょう。

国内のジレンマ:景気刺激策と構造改革のコンビネーション

外的ショックを除いても、中国は厳しい国内情勢に直面しています。2024年後半の景気刺激策によって一時的な回復が見られたものの、経済は現在、地方財政の悪化とデフレリスクによる逆風に直面しています。不動産危機によって家計の資産が大きく目減りし、消費の減少と民間投資の低迷が起きています。これは、消費や投資よりも債務返済が優先される、バランスシート不況の典型的な兆候です。このような状況では、利下げには効果がありません。バランスシートが逼迫している場合、借入コストが低下しても需要が拡大しないからです。

しかし、ポジティブな変化も起きています。中国政府は現在、利下げよりも財政刺激策に重点を置いています。この方がより直接的に成長を促進することが可能です。主要な財政措置は、毎年3月に開催される両会(全人代および政協)で発表されるでしょう。本年上期は政策の明確化を待つという意味合いが強くなり、財政改革や米国との貿易戦争エスカレーション回避による業績回復については、下期が転機になるでしょう。

注目すべき重要指標はインフレ率です。インフレ率が上向けば需要回復のサインと考えられるので、市場は好意的に受け止めるでしょう。

改革が実行されれば、構造面から見てより明るい見通しが中国に現れるでしょう。大きな問題になっている不動産セクターには、注意が必要です。消費者セクターでは、高水準の予備的貯蓄と低迷する消費マインドに対処することが、センチメントを持続的に改善する上で極めて重要になります。そのためには、福祉や年金、医療への支出を増やし、社会的セーフティネットを強化することが必要になるでしょう。さらに、債務返済に苦しむ地方政府を支援するための包括的な債務再編計画を策定すれば、投資支出を押し上げることができるでしょう。

株式:悪材料の多くは株価に織り込み済み 

中国株には今もリスクがあるものの、希望がないわけではありません。MSCIチャイナ・インデックスの予想PERは現在9.7倍で、5年平均の11.62倍を大幅に下回っています。このことは、特に下期に政策の明確性が向上し、貿易の不透明感が薄れれば、上値の余地があることを示唆しています。

投資家には、昨年9月の経済対策によって2024年のMSCIチャイナが16%上昇し、4年ぶりのプラスとなったことが思い起こされるかもしれません。上昇を主導したのはIT通信金融で、これらのセクターは2025年に財政刺激策が強化されれば、引き続き好調を維持できるでしょう。財政措置が大規模かつ消費者重視のものであれば、生活必需品やeコマース、旅行スポーツウェアの各セクターで反転が見られるでしょう。

中国の主な戦略セクターとしては、テクノロジー(インターネットやハードウェアの大手企業)、先進的製造業電気自動車(EV再生可能エネルギーなどがあります。こうしたセクターは引き続き中国政府の長期成長戦略の重点部門であり、強力な政策支援が期待されます。

しかし、不動産低迷の影響が大きいセクターは回復に時間がかかるでしょうから、不動産インフラ建設セクターが直ちに回復する可能性は限られるでしょう。

さらに投資家は、地域別の資金フローにも目を配る必要があります。市場では、韓国が政治的リスクを理由にアンダーウエイトへ、インドが成長鈍化を理由にニュートラルへと変化しています。TSMCが大きく牽引してきた台湾の上昇は、現在は頭打ちとなっているようです。中国についてはわずかでも好材料があれば、中国資産に資金が戻るきっかけとなるかもしれません。

人民元の見通し:持続的な人民元高は見込みにくい

中国では現在、債券価格の上昇が続き、利回りが過去最低水準に落ち込んでいるため、人民元は強い下押し圧力にさらされています。ベンチマークとなる10年物利回りはこの1か月でほぼ40ベーシスポイント低下して1.60%を割り込み、米中の利回り格差は前例のない300ベーシスポイントまで拡がっています。これが人民元の大きな下げ圧力になっています。中国経済が直面する課題や、金利差、米ドルの強さを考えると、人民元安は今後も続くと思われます。さらに中国としては、輸出部門を支えるために人民元安を維持する必要があるかもしれません。

Source: Bloomberg and Saxo

しかし、中国が米国との貿易協定交渉に成功すれば、人民元は上昇し、最近の元安が逆転することも考えられます。そうなれば、中国資産にとっては大きな安心材料になるとともに、米ドルには下落圧力がかかるでしょう。また、中国当局が更に大規模な景気刺激策を講じる余地も生じるでしょう。

しかし、人民元高が持続するためには、米国の景気後退と連邦準備制度理事会(FRB)による利下げの加速、さらには米国との大きな金利差を縮めるための中国経済の見通し改善が必要でしょう。2025年にこれを実現することはかなり難しいでしょう。

口座開設は無料。オンラインで簡単にお申し込みいただけます。 

最短3分で入力完了!

【ご留意事項】

■当資料は、サクソバンクグループのアナリストによるマーケット分析レポートの転載、もしくは外部のアナリストからの寄稿となっております。
■当資料は、いずれも情報提供のみを目的としたものであり、特定の取引の勧誘を目的としたものではありません。
■当資料は、作成時点において執筆者またはサクソバンク証券(以下「当社」)が信頼できると判断した情報やデータ等に基づいていますが、執筆者または当社はその正確性、完全性等を保証するものではありません。当資料の利用により生じた損害についても、執筆者または当社は責任を負いません。 
■当資料で示される意見は執筆者によるものであり、当社の考えを反映するものではありません。また、これら意見はあくまでも参考として申し述べたものであり、推奨を意味せず、また、いずれの記述も将来の傾向、数値、投資成果等を示唆もしくは保証するものではありません。 
■当資料に記載の情報は作成時点のものであり、予告なしに変更することがあります。 
■当資料の全部か一部かを問わず、無断での転用、複製、再配信、ウェブサイトへの投稿や掲載等を行うことはできません。
■上記のほか、当資料の閲覧・ご利用に関する「免責事項」をご確認ください。 
■当社が提供するデリバティブ取引は、為替相場、有価証券の価格や指数、貴金属その他の商品相場または金利等の変動によって損失を生じるおそれがあります。また、お預けいただく証拠金額に比べてお取引可能な金額が大きいため、その損失は、預託された証拠金の額を上回る恐れがあります。
■当社が提供する外国証券取引は、買付け時に比べて売付け時に、価格が下がっている場合や円高になっている場合に損失が発生します。手数料については、「取引金額×一定料率」又は「取引数量×一定金額」で求めた手数料が一回の取引ごとに課金されます。ただし手数料の合計額が当社の定める最低手数料に満たない場合は、手数料に代えて最低手数料を徴収させていただきます。また取引所手数料等の追加費用がかかる場合があります。 
■取引にあたっては、取引説明書および取引約款を熟読し十分に仕組みやリスクをご理解いただき、発注前に取引画面で手数料等を確認のうえ、ご自身の判断にてお取引をお願いいたします。 
■当社でのお取引にかかるリスクやコスト等については、 こちらも必ずご確認ください。

サクソバンク証券株式会社
Saxo Bank Securities Ltd.
Izumi Garden Tower 36F
1-6-1 Roppongi Minato-ku
Tokyo 106-6036
〒106-6036 東京都港区六本木1-6-1
泉ガーデンタワー36F

お問い合わせ

国・地域を選択

日本
日本

【重要事項及びリスク開示】

■外国為替証拠金取引は各通貨の価格を、貴金属証拠金取引は各貴金属の価格を指標とし、それらの変動に対する予測を誤った場合等に損失が発生します。また、売買の状況によってはスワップポイントの支払いが発生したり、通貨の金利や貴金属のリースレート等の変動によりスワップポイントが受取りから支払いに転じたりすることがあります。
■外国為替オプション取引は外国為替証拠金取引の通貨を、貴金属オプション取引は貴金属証拠金取引の貴金属を原資産とし、原資産の値動きやその変動率に対する予測を誤った場合等に損失が発生します。また、オプションの価値は時間の経過により減少します。また、オプションの売り側は権利行使に応える義務があります。
■株価指数CFD取引は株価指数や株価指数を対象としたETFを、個別株CFD取引は個別株や個別株関連のETFを、債券CFD取引は債券や債券を対象としたETFを、その他証券CFD取引はその他の外国上場株式関連ETF等を、商品CFD取引は商品先物取引をそれぞれ原資産とし、それらの価格の変動に対する予測を誤った場合等に損失が発生します。また、建玉や売買の状況によってはオーバーナイト金利、キャリングコスト、借入金利、配当等調整金の支払いが発生したり、通貨の金利の変動によりオーバーナイト金利が受取りから支払いに転じたりすることがあります。
■上記全ての取引においては、当社が提示する売価格と買価格にスプレッド(価格差)があり、お客様から見た買価格のほうが売価格よりも高くなります。
■先物取引は各原資産の価格を指標とし、それらの変動に対する予測を誤った場合等に損失が発生します。
■外国株式・指数オプション取引は、対象とする有価証券の市場価格や対象となる指数、あるいは当該外国上場株式の裏付けとなっている資産の価格や評価額の変動、指数の数値等に対する予測を誤った場合等に損失が発生します。また、対象とする有価証券の発行者の信用状況の変化等により、損失が発生することがあります。なお、オプションを行使できる期間には制限がありますので留意が必要です。さらに、外国株式・指数オプションは、市場価格が現実の市場価格等に応じて変動するため、その変動率は現実の市場価格等に比べて大きくなる傾向があり、意図したとおりに取引ができず、場合によっては大きな損失が発生する可能性があります。また取引対象となる外国上場株式が上場廃止となる場合には、当該外国株式オプションも上場廃止され、また、外国株式オプションの取引状況を勘案して当該外国株式オプションが上場廃止とされる場合があり、その際、取引最終日及び権利行使日が繰り上げられることや権利行使の機会が失われることがあります。対象外国上場株式が売買停止となった場合や対象外国上場株式の発行者が、人的分割を行う場合等には、当該外国株式オプションも取引停止となることがあります。また買方特有のリスクとして、外国株式・指数オプションは期限商品であり、買方がアウトオブザマネーの状態で、取引最終日までに転売を行わず、また権利行使日に権利行使を行わない場合には、権利は消滅します。この場合、買方は投資資金の全額を失うことになります。また売方特有のリスクとして、売方は証拠金を上回る取引を行うこととなり、市場価格が予想とは反対の方向に変化したときの損失が限定されていません。売方は、外国株式・指数オプション取引が成立したときは、証拠金を差し入れ又は預託しなければなりません。その後、相場の変動や代用外国上場株式の値下がりにより不足額が発生した場合には、証拠金の追加差入れ又は追加預託が必要となります。また売方は、権利行使の割当てを受けたときには、必ずこれに応じなければなりません。すなわち、売方は、権利行使の割当てを受けた際には、コールオプションの場合には売付外国上場株式が、プットオプションの場合は買付代金が必要となりますから、特に注意が必要です。さらに売方は、所定の時限までに証拠金を差し入れ又は預託しない場合や、約諾書の定めによりその他の期限の利益の喪失の事由に該当した場合には、損失を被った状態で建玉の一部又は全部を決済される場合もあります。さらにこの場合、その決済で生じた損失についても責任を負うことになります。外国株式・指数オプション取引(売建て)を行うにあたっては、所定の証拠金を担保として差し入れ又は預託していただきます。証拠金率は各銘柄のリスクによって異なりますので、発注前の取引画面でご確認ください。
■上記全ての取引(ただしオプション取引の買いを除く)は、取引証拠金を事前に当社に預託する必要があります。取引証拠金の最低必要額は取引可能な額に比べて小さいため、損失が取引証拠金の額を上回る可能性があります。この最低必要額は、取引金額に対する一定の比率で設定されおり、口座の区分(個人または法人)や個別の銘柄によって異なりますが、平常時は銘柄の流動性や価格変動性あるいは法令等若しくは当社が加入する自主規制団体の規則等に基づいて当社が決定し、必要に応じて変更します。ただし法人が行う外国為替証拠金取引については、金融商品取引業等に関する内閣府令第117条第27項第1号に規定される定量的計算モデルを用いて通貨ペアごとに算出(1週間に1度)した比率を下回らないように当社が設定します。
■上記全ての取引(ただしオプション取引の買いを除く)は、損失が無制限に拡大することを防止するために自動ロスカット(自動ストップロス)が適用されますが、これによって確定した損失についてもお客様の負担となります。また自動ロスカットは決済価格を保証するものではなく、損失がお預かりしている取引証拠金の額を超える可能性があります。
■外国証券売買取引は、買付け時に比べて売付け時に、価格が下がっている場合や円高になっている場合に損失が発生します。
■取引にあたっては、契約締結前交付書面(取引説明書)および取引約款を熟読し十分に仕組みやリスクをご理解いただき、発注前に取引画面で手数料等を確認のうえ、ご自身の判断にてお取引をお願いいたします。

サクソバンク証券株式会社

金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第239号、商品先物取引業者
第一種金融取引業、第二種金融商品取引業
加入協会/日本証券業協会、一般社団法人金融先物取引業協会、日本投資者保護基金、日本商品先物取引協会
手数料:各商品の取引手数料についてはサクソバンク証券ウェブサイトの「取引手数料」ページや、契約締結前交付書面(取引説明書)、取引約款等をご確認ください。