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チーフ・インベストメント・ストラテジスト
サマリー: 米ドル高は行き過ぎのようにみえますが、欧州と英国のスタグフレーション・リスクと中国経済の持続的な弱さは、さらなる米ドル高もあり得ることを引き続き示唆しています。米ドル高は米国のインフレ抑制に役立ちますが、米国経済にとって、あるいは米ドル建てでない外貨建ての資産を多く保有する投資家にとっては好ましくないことかもしれません。もっとも、外貨建て投資がより手頃な価格になり魅力的に見える時でもあります。
大半の中央銀行は引き締めサイクルの終わりにあるように見えますが、速いペースで行われた今回の利上げサイクルは米ドルの大幅な上昇をもたらしました。利回りの上昇と米経済の持続的な強さがドルの王様たる地位を支えており、これまでのところ利下げの議論は本格化していません。9月中旬の本稿執筆時点で、フェデラルファンド(FF)先物は2024年末のFF金利を4.5%とし、最初の完全な利下げを6月と想定しています。これに対し、第3四半期初の時点では、2024年末の政策金利を4.1%とし、2024年5月に最初の完全な利下げが織り込まれていました。
今後の外為市場は、どの中央銀行が最初に緩和サイクルに切り替えるのか、そして利下げがどのような影響を及ぼすのかに注目し始めるとみられます。今年の第4四半期から2024年に向かう中で、利回り格差は通貨の強弱を決める上で重要な要因になっていく可能性があります。米国の8月のコアCPIは依然として堅調で、当面の間は引き続きFRBの「より高くより長く」という姿勢に関心が集まりますが、第4四半期に米国経済の勢いが弱まれば、この姿勢が変わることも考えられます。金利の上昇や金融条件の厳格化が経済に影響を与え、企業業績の重しになる恐れがあります。第4四半期は、パンデミック貯蓄の取崩しが進み、学生ローンの返済開始が家計を圧迫するなど、消費者についてもリスクがあると当社はみています。このように米経済が軟化すれば、差し当たり、予想される利下げの時期が2024年半ばから前倒しされることになり米ドルを圧迫する可能性があります。
しかし、米国経済が相対的に欧州や中国よりも堅調であることが、引き続き米ドルを下支えすると考えられます。スタグフレーション・リスクはユーロ圏と英国で最も高く、対ユーロ、対英ポンドで米ドル安になりにくい状況が続くことを示唆しています。ブルームバーグ・ドル・スポット指数ではユーロが高いウェイトを占めているため、米国でスタグフレーションの懸念がより顕著になるまで、米ドルの全体的な下落傾向は回避される可能性があります。
一方、中国の景気回復は依然としてはっきりせず、金融緩和策により利回り面で人民元が米ドルに対して不利な状況が続いています。8月は融資が増え、8月の消費者物価指数がデフレからの脱却を示唆するなど、中国の経済指標が改善し始めていることを示す兆候がいくつか見られますが、季節的要因が関係している可能性もあります。人民元の上昇を持続可能なものにするには、中国経済のより強固な回復が必要です。それまでの間、人民元安は円安との競争で中国の輸出競争力を維持するのに役立つでしょう。
日銀は第3四半期、日本円の防衛にやや積極的となり、マイナス金利から脱却する時期を前倒しするとほのめかしました。しかし、抜本的な金融政策の明確な兆しが見えない限り、基本的な状況は発言とずれたままです。これは、いかなる円高傾向も長続きしないことを意味します。
為替市場でのこれら通貨のアンダーパフォーマンスはさらなる米ドル高を指し示しています。もっとも、ここからの米ドル高はこれまでほど簡単ではないと考えられます。コモディティ価格とリスクセンチメントが引き続き堅調であるならば、対豪ドル、対NZDでは下押し圧力がいく分かかるとみられます。スウェーデン・クローナのような高ベータ通貨も強含む可能性があります。中国当局も人民元を安定させることにより注力する姿勢を示しています。また、原油市場のひっ迫が続き、ブレントは短期的に100ドルの大台に向かうと考えられ、それに伴いカナダドルは上昇する可能性があります。
一方、新興国の利下げサイクルは始まっており、しかも積極的に行われています。ブラジル、チリ、ポーランドは第3四半期に利下げを開始し、利下げは驚くほどのスピードで進められています。このような急激な金利の動きは新興国通貨を不安定にするおそれがありますが、FRBが「より高くより長く」を引き続き唱える場合、今後の利下げはより控えめになると予想されます。そうなれば、中南米などの新興国通貨のキャリーが好ましい水準にとどまる可能性があり、ブラジルレアルとメキシコペソは上昇する余地がでてきます。メキシコは米国の経済成長の恩恵を受ける可能性もありますが、メキシコ中央銀行が為替フォワード取引の巻き戻しを計画しており、これがドル買いを意味することから、短期的には同国通貨にやや下押し圧力がかかると考えられます。アジア通貨は人民元高が和らぐまで圧力を受け続けると考えられます。しかし、9月に過去最低を更新したインドルピーは、インフレ率の急上昇が一時的である限り、国内経済の力強い成長と資本流入の増加を背景に反発するとみています。
強い米ドルは厳しい状況に陥っている国をさらに厳しくしています。米ドル高で経済や通貨が最も打撃を受けている国々の政策当局者は、第3四半期に警告を発しました。中国と日本は、金融政策や利回りの方向性が米国と同調できるような経済サイクルの状況にないため、自国通貨安への懸念を強めているようにみえます。ユーロ圏の国々や英国などにとっては、米ドル高はインフレとの闘いを脅かし、さらなる利上げを余儀なくさせ、経済を景気後退やスタグフレーションの瀬戸際に立たせています。しかし、1985年のプラザ合意のような中央銀行の協調介入は可能でしょうか。そうは思いません。当時は、強い米ドルが米国の輸出競争力を弱めていたため、米国はドル安を望み、協調介入に加わりました。しかし、現在は状況が逆転しています。米ドル高がFRBのインフレ対策を支援しているため、米ドル安に向けた協調的な取り組みは実現しそうにありません。
一方で、来年から始まるBRICSの拡大などに伴い脱米ドル化が数年早まっており、これによって協調が進むのか、より混乱するのかという疑問が生じています。米ドルに代わる通貨は、せいぜい拡大BRICS内の貿易で使われるにとどまり、近い将来、世界的な貿易決済通貨や準備通貨としての米ドルの地位に対する現実的な脅威になるとは考えにくい状況に変わりありません。
投資家としては、ポートフォリオへの米ドル高の影響を警戒し続ける必要があります。以下に考慮すべき点をいくつか示します。
米ドル建て資産に大きなエクスポージャーを抱えているものの、株式には弱気でポートフォリオをヘッジしようとしている市場参加者は、米ドルのロングを安全と考えるかもしれません。しかし、この考え方は短期トレーダーにより適していると考えられます。なぜなら、ヘッジされたものとヘッジされていないもののリターンは、長期的に見れば同じになる傾向があるためです。また、米ドルと他の通貨との間の金利差が大きいため、アジアや欧州の投資家にとってヘッジコストが高くつくことにも注目すべきです。十分に分散されたポートフォリオにおいて国際的に投資することの方が、ヘッジの判断よりもポートフォリオにとって重要であると考えられます。
米国を拠点とする投資家は、米国以外の投資パフォーマンスの弱さに直面しているかもしれません。そのため、こういった投資家は、国際的に展開している大手企業やハイテク企業、消費者によく知られた企業よりも、国内中心に事業を展開している米国企業、主として中小企業や不動産・公益事業のようなセクターの企業に重点を移す可能性があります。
米国を拠点としない投資家にとっては、米国のエクスポージャーを増やすことが割高になりつつあります。自国の投資対象の方がより魅力的で手頃な価格で取得できるため、米国資産への新規資金流入が減少するおそれがあります。