口座開設は無料。オンラインで簡単にお申し込みいただけます。
最短3分で入力完了!
Chief Investment Strategist
サマリー: インフレとの闘いは、世界経済に亀裂を生じさせる水準にまで資本コスト(資金調達に伴うコスト)を引き上げました。同時に、米国の財政サイクルは転機を迎えており、高金利と相まって、経済を軽度のスタグフレーションに追い込む可能性があります。これは景気循環銘柄にとって良くない状況であり、こういったシナリオの下で最もリスクが高いのはAI関連銘柄です。資本コストの上昇はグリーン・トランスフォーメーションの脆弱性も浮き彫りにし、この点が経済の悪化以外で金利を低下させるきっかけとなる可能性があります。なぜなら、急速な脱炭素化は低金利の環境下でのみ起きるためです。
2022年7月以降、CHIPS法やインフレ抑制法などバイデン政権の様々な支出プログラムを通じた米政府の追加支出により、米国の財政赤字の拡大は、GDPの5ポイント上乗せに相当する約1兆ドルに達しました。これは金利上昇による負の影響を相殺し、今年起こり得た景気後退の可能性を基本的に回避しました。この財政策は、米国経済はごくわずかな生産ギャップとひっ迫した労働市場という前提に基づいて実施されため、構造的なインフレ圧力が強まり、FRBは当初よりも強い引き締めを迫られました。
米国の財政サイクルがプラスからマイナスに転じる可能性が高いため米国経済は減速し始める一方、欧州と中国は低成長のままです。この結果、世界は軽度のスタグフレーションに陥る可能性があります。この場合、実質経済成長率が鈍化する一方、インフレ率は過去の平均を大幅に上回って推移します。世界が最後にスタグフレーションを懸念したのは2022年の夏でしたが、こうした懸念はすぐにも再燃し、株式市場を悩ませる可能性があります。
当グループの慎重な見通しをさらに強化する事実として、世界経済が金利上昇の影響を受けつつある兆候が伺えるにもかかわらず、株式のバリュエーションが1995年以降の長期平均を1標準偏差程度上回る水準に戻っていることが挙げられます。これは当然、株式の長期的なリスク・リターンを引き下げます。
本四半期展望の冒頭で述べたように、グリーン・トランスフォーメーション、新規住宅購入者にとって許容可能な生活費、クレジットを利用して消費している貯蓄率の低い消費者にとって実質金利はあまりに高過ぎます。金利の上昇とコモディティ価格の上昇は、これらが起きなければグリーン・トランスフォーメーションを実現するための重要なエネルギー源の一つと考えられていた洋上風力発電の前提条件を大きく変えました。世界的に予定されている多くの洋上風力プロジェクトの交渉は、永続的に低い金利と安価な工業用金属を前提としていました。
パンデミックとロシアによるウクライナ侵攻は世界情勢に大きな影響を与え、これらのプロジェクトはもはや実行不可能となり、世界有数の洋上風力開発会社であるオーステッドは大幅な減損処理を余儀なくされました。シーメンス・エナジーは風力タービンの設計ミスに苦しみ多額の費用を負担しており、世界最大の風力タービン・メーカーであるベスタスの事業は停滞しています。しかし、風力だけでなく、グリーン・トランスフォーメーションに関連するすべてのものが、状況の変化によって大きな打撃を受けています。過去1年間でパフォーマンスが悪かったテーマ・バスケットの上位3つを挙げると、再生可能エネルギー、グリーン・トランスフォーメーション、エネルギー貯蔵です。
電力セクターの脱炭素化における資本コストの役割に関する研究によると、太陽光と風力は総コストに占める初期投資の割合が他よりも高く、資本コストの上昇に間違いなく最も敏感なエネルギー源です。これに続いて資本コストの上昇に敏感な2つのエネルギー源は、原子力と炭素回収・貯留技術を伴う石炭です。資本コストの上昇に対する感応度が最も鈍い電源は天然ガスであり、したがって、限界エネルギー・コストを最も低くするのが目標であるならば、資本コストの上昇は化石燃料全般の使用を促すことになります。再生可能エネルギーの中では、資本コストの上昇は原子力発電にとって追い風になります。原子力発電が短期的に世界経済の脱炭素化の鍵となることを政策立案者が徐々に認識し始めたことで、風向きが一変しました。時間が経つにつれ、グリーン・トランスフォーメーションのために金利を引き下げるよう求める圧力が高まるものとみられます。
グリーン・トランスフォーメーションは資本コストの上昇によって打撃を受けていますが、さらに悪いことに、中国の安価な電気自動車(EV)の氾濫が、当グループの第2四半期見通しで示したようなEV市場の分断化をもたらしています。半導体は米中の地政学的摩擦の一部になっていますが、EVは欧州と中国の地政学的摩擦になりそうな気配です。実質債券利回りが低下しない限り、世界の分断化の進行がグリーン・トランスフォーメーションの実現を促すでしょう。
前回の四半期見通しで、AIの熱狂がどのように株式市場、特にAI関連銘柄で上昇相場を演出したかを説明しました。その際、危険なほどに高い株式バリュエーションや「AI」「ChatGPT」などのキーワード検索数の低下を根拠として、AI関連銘柄はバブル状態にあると指摘しました。あれからさらに四半期が経過しましたが、第2四半期決算シーズン後のデータは、AIのゴールドラッシュとエヌビディア製GPU(画像処理装置)の大量購入がまだ金鉱に変わっていないことを示しています。マイクロソフトとアドビは、大規模な販売網を持ちコンテンツ制作エコシステムの一部を担っていますが、両者ともAIブームに根拠を与えることはできませんでした。マイクロソフトは決算説明会で、AIの販売は緩やかなものになるとし、アドビの見通しはAIが一気に拡大することを想定していません。