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Chief Investment Strategist
サマリー: OpenAIのGPT-4のような高度なAI(人工知能)システムの登場は、今年最も驚くべき出来事であり、すべてを覆しました。AIを喧伝する急騰は米国株式市場を新たな極限に押し上げ、この新技術のメリットとリスクが熱く議論されています。AIはまた、米中間の軍拡競争の種にもなる可能性があります。
2023年初めは悲観論が優勢でしたが、中国経済再開に対する楽観論が広がり、AIの話題が関心を集め始めたことで市場は活気を取り戻し、3月中旬までに半導体銘柄や高級品セクター、メガキャップ(超大型株)が2桁の上昇を示しました。このような中、シリコンバレー銀行の破綻とクレディ・スイスの買収に端を発した銀行危機が景気後退の懸念を再燃させ、市場は年内に150ベーシスポイント(bps)という大幅な利下げが実施されるとするという予測を織り込み始めました。景気はついに失速かとの見方が浮上しました。
ところが、今年のジェットコースターのような相場に新たな展開が訪れました。景気に対する悲観論がピークに達し、積極的な利下げの観測が高まった頃、OpenAIが「GPT-4」というAIシステムを発表し、市場はそれまでとは異なる様相を示し始めました。過去のバブルを彷彿とさせるAI投機熱で、AI関連企業の株価は軒並み急騰しました。当グループの半導体テーマ・バスケットは3月中旬までに17.5%上昇し、さらに6月中旬には39.8%上昇に達しました。さらに印象的だったのは、バブル・テーマ・バスケットが同じ期間に8%上昇から37.8%上昇へと大幅に値を上げたことです。
米国の経済指標は、依然として経済活動がトレンド成長率を下回っている一方で、景気後退の兆候はないことも示しています。4月中旬に第1四半期の決算発表が始まって以来、特に欧州で業績予想が大幅に上方修正されています。米国の金融情勢は、2022年3月に米連邦準備理事会(FRB)の利上げ転換により逼迫方向に大きく振れましたが、2023年3月下旬に経済状況を考慮すると依然として緩和的とみられる水準でピークを付け、現在は2022年3月以降で最も緩和的な水準に近づいています。市場は年内の利下げをほぼ織り込み済みです。言い換えれば、第3四半期は、「低インフレ・低金利に戻る」とシナリオの可能性よりも、現在の市場予想を上回るインフレと政策金利引き上げのリスクの方が高いということです。
AIブームで活気が戻り、生産性向上への楽観的な見方が強まっているのは間違いありませんが、同時に米国株式市場のリスクも高まっています。米国株式のバリュエーションは2022年4月以来の水準に上昇し、S&P500のフリーキャッシュフロー利回りが3.9%まで低下するなど、割高感が増しつつあります。市場全体をバブルと呼ぶには時期尚早ですが、半導体銘柄は明らかにバブルの様相を呈しており、12カ月予想EV/EBITDA倍率で測ったバリュエーションは2010年以来の高水準にあります。
もうひとつのリスクは、二度と起こらないと考えていた米国株式市場の集中化の復活です。新興AI技術から最も大きな経済的利益を得るのは大型テクノロジー企業であると予想されているため、今年の相場反騰をけん引したのは少数のメガキャップ銘柄です。より深刻な問題は、米国株式指数がかつて経験したことのないようなウェイト集中化に陥っていることです。時価総額上位10銘柄がS&P500のそれに占める割合は30.4%に達し、ハーフィンダール・ハーシュマン指数(ある業界の市場における企業間の競争状態を測る尺度で市場占有の度合いを表す指数)はドットコム・バブルのピーク時を40%も上回る水準に達しています。これにより、米国株式市場の脆弱性は高まり、リスク要因の影響を受けやすくなっています。従って、当グループはメガキャップに対する見方を弱気に転じ、メガキャップ以外の幅広い銘柄をオーバーウェイトする戦略が有効であると考えています。
グローバル投資家にとっては、株式投資の比率を減らすべきか否かという問題が引き続き重要です。MSCIオール・カントリー・ワールド指数で測ったグローバル株式の配当利回りは2.3%、予想自社株買い利回り(時価総額に対する自社株買い金額の比率)は1.2%です。予想実質増益率2.2%を勘案すると、グローバル株式の長期的な期待年率実質リターンは5.7%となります。これに対し、世界の投資適格債の最低利回り(最も不利な条件で償還が行われた場合に想定される利回り)は3.8%ですが、今後10年の期待インフレ率2.5%を差し引くと、投資適格債の長期期待リターンは年率1.2%に低下します。言い換えれば、投資家が長期的な富の最大化を望むのであれば、株式のオーバーウェイトが依然として最も賢明な戦略であるということです。
新しい技術は社会にプラスとマイナス両方の影響をもたらしますが、AIも例外ではありません。マッキンゼーが最近発表した生成AIに関する報告書によれば、このテクノロジーによって年間2.6兆ドルから4.4兆ドル、すなわち、英国経済と同規模の付加価値が生み出されるということです。マッキンゼーは、AIによって今日の労働活動の60~70%が自動化され、労働生産性は0.1~0.6%ポイント向上する可能性があると予測しています。技術に関する長期的な予測は難しいものですが、マッキンゼーのレポートは時代の流れを見事に言い当てています。AI技術は、冷戦時代の宇宙や20年前のインターネットのように、より良い豊かな未来への新たな希望となりつつあります。
AI関連銘柄は、IT分野の調査・助言を行うガートナー社のハイプ・サイクル・モデルの論理に従えば、「膨張した期待のピーク」を特徴とするバブル期に入ったというのが当グループの見方です。間もなく、高まった期待に応えられない企業が出始め、投資家は幻滅の谷に転げ落ちた後に、啓発の坂道を上り始めることになるでしょう。今回のAIブームの波に最もうまく乗った企業の概要を説明するために、当グループはAIテーマに関する20銘柄のリストを作成しました。AIへの関心の高さを裏付けるように、このリストへのアクセスは既に当グループのエクイティ・リサーチの中でも群を抜いて高くなっています。AI銘柄リストで注目すべきは、これらの銘柄の多くが目標株価に近い水準で取引されていることで、株式アナリストの業績見通しに基づけば、現在の株式バリュエーションを正当化するのは困難であることを示しています。
悲観論者は、AIは長期的には経済的利益を生み出すだろうが、世界は現在のトレンドを大きく外挿し、AI関連銘柄のバブルを生み出していると主張するでしょう。米国でGoogleによる「ChatGPT」と「AI」の検索件数は4月にピークを付け、既に減少傾向にあります。これは、当初の熱が冷め始めていることを示唆していますが、株式市場の興奮はいまだ冷めやらぬようです。また、悲観論者は生成AIがフェイクニュースや画像、動画の氾濫を引き起こし、最終的には自らの学習源となるデータを事実上汚染することになり、将来の情報システムは当然のごとく停滞し、さらに悪いことに、情報システムに対する信頼を崩壊させる可能性があると主張するでしょう。このシナリオでは、伝統的メディアが信頼できる情報源として見事に返り咲くかもしれません。
ウラジミール・プーチンは2017年に、AIのリーダーになった者が世界の支配者になると発言しました。ロシアの指導者たちは大げさな表現を好むため、この予測は当然割り引いて考えるべきですが、AIは将来の大国間競争において重要な役割を果たす可能性は高いでしょう。
2017年頃のテクノロジーとAIに関する記事を読むと、世界は中国がAI競争をリードしているか、少なくとも数年以内に米国を追い抜くスピードで進歩していると考えていたことが分かります。驚くべきことに、Open AIのGPT-4やGoogleのBardのようなAIシステムが、多くのベンチマークテストで中国のAIシステムを打ち負かしていることから、米国が他のどこよりも先行していることが判明しました。
前回の四半期予想で述べたように、未来は当グループが「分断化ゲーム」と呼ぶものに左右されることになるでしょう。それは要するに地政学的な戦略の力学であり、世界を高い独立性を保つ幾つかの地域に分断化し、各地域は国防、エネルギー、テクノロジー、コモディティという4つの柱を中心に、国家安全保障上の利害で政策を推進することになります。分断化ゲームは主に、物理的な世界の運営方法をめぐって展開されるゲームであり、欧州と米国がそれぞれのサプライチェーンにおける中国の役割を縮小することを目指しているゲームです。中国にとっては逆風である一方で、他国にとっては追い風となります。このことは、中国と分断化ゲームから恩恵を受ける国々の株式パフォーマンスを比較したチャートによく表れています。
分断化ゲームの枠組みの中では、AIの演算処理を高速化させるAIチップの基盤そのものである半導体も重要な役割を果たします。国内・域内での半導体生産を拡大し、アジアに対する依存度引き下げを目指す米国と欧州では、今後10年間に半導体産業が設備投資ブームを巻き起こすでしょう。これは、半導体の設備投資と連動する半導体製造装置メーカーに利益をもたらすことになります。投資家がAI関連銘柄でジェットコースターのような経験をするか否かに関係なく、AIが米中間の重要な技術的戦場となり、今後数年間で多くのチャンスと脅威が生まれるのは確かなことです。